どうも、南予地域活性化支援チーム(生産者・工芸家班)です。
南予地域の工芸家・生産者の方へのインタビューということで、西予市野村町に位置する「野村シルク博物館」を訪問しお話を伺ってきました。初めに、インタビューに伴い休日にもかかわらずご対応くださいました、野村シルク博物館の職員の方々に深くお礼申し上げます。
西予市野村町は古くから養蚕業が盛んな町として有名ですが、その始まりは明治3年(1870年)と言われており現在までに150年以上もの長い歴史があります。野村町でこのように養蚕業が発展してきた理由として、野村町の地域特性と、養蚕業の収益性の高さがあります。
野村町は山々に囲まれた平地からなる中山間地域であり、広大な田畑を造成することが地形的制約から困難でした。一方で、中山間地域であることにより河川に沿って肥沃な土壌が形成され、蚕のエサの供給源である桑の木の栽培に適していたことに加えて、蚕が卵から孵化してからおよそ1か月という短い期間で蛹になるため安定した収益を見込みやすい産業であったことから、野村町において養蚕業は急速な拡がりを見せました。
しかしながら、近年では着物に代表されるような和装文化が見られなくなってきており、かつ比較的需要がある外国人旅行客向けの着物はナイロン等の素材で作られていることが多いため、生糸を用いて丹念に織られた一点物の着物に対する需要が以前と比べて減ってきているという現状があります。
そのような、野村町における養蚕業の歴史と繊維産業の現状を踏まえた上で、本日は「野村シルク博物館」にて見学・インタビューさせていただきました。
野村シルク博物館(繰糸工場)
当日のタイムスケジュール
- 9:50 野村シルク博物館到着
- 10:00 繰糸(そうし)工場へ移動 → 繰糸の作業工程について説明を受ける
- 11:00 井関さんにインタビュー
- 11:30 織物館へ移動・展示資料の鑑賞
- 12:00 コースター作成体験
◆繰糸工場にて作業工程の説明を受ける
野村シルク博物館に到着後するとさっそく繰糸工場に案内され、繰糸作業に関する説明をしていただきました。
そこでのお話をまとめてみると、次のような感じになります。
- 絹糸を取り出すための繭の入荷
- 保管庫にて繭を冷蔵保存
- ボイラーにて繭を煮る → 「煮繭(しゃけん)」
- 多条繰糸機を用いて、生糸を紡ぐ → 「繰糸(そうし)」
- 生糸を一定の温度・湿度に保ち、状態を安定させる → 「揚げ返し(あげかえし)」
- 一定量ごとに束にして、出荷まで保管
- 機屋(はたや)等の取引先へ出荷
・繭の入荷
一番初めに、生糸を作るために必要な繭を仕入れます。そもそも繭というのは、蚕が卵から孵化した後、1か月ほど経過して蛹化(ようか)する際に絹糸腺(けんしせん)という器官から糸をはいて作られるものです。そのため、繭の中には蛹の状態の蚕が眠っています。蚕が卵の状態から蛹になり繭を作る段階までの繁殖・飼育を担っているのが、蚕種工場になります。
(※蚕種:蚕の卵のこと)
蚕種工場から仕入れた繭は乾燥させた後、保管庫にて冷蔵保存することで中の蚕を仮死状態にして成長を止めるとともに、カビや病原菌の繁殖を抑制します。
・繭の煮繭
保管庫より取り出し選別を行った繭に対して、煮繭(しゃけん)という作業を行います。専用のボイラーで繭を煮ることで、繭糸どうしを接着している「セリシン」という水溶性物質が水に溶けだし、繭が柔らかくなります。繭がほぐれることで、次工程の繰糸において糸を巻き取ることが可能となります。煮繭の出来具合いによって後工程の繰糸の作業効率が格段に変わるため、とても重要な作業です。
・繰糸
煮繭によって繭をほぐした後、繰糸機を用いて複数の繭から出る糸を撚り(より)合わせて生糸にする作業が繰糸(そうし)です。繰糸に先立ち、専用のブラシを用いて繭から糸先を見つけ出す「索緒(さくちょ)」という作業を行います。繭から糸が取り出せたら、繰糸機の「条(じょう)」と呼ばれるツメの部分に繭の糸口(いとぐち)から取り出した糸をひっかけて撚り合わせます。こちらの繰糸工場では「多条(たじょう)繰糸機」という機械を用いて、9個の繭から出る糸を撚り合わせて1本の生糸にしています。繭1個からなんと1,500mもの長さの糸がとれるそうで、繰糸工程において発生する「生皮苧(きびそ)」(繰糸に使われない部分)についても、化粧品等の他の商品開発に活用されています。
・揚げ返し
表面を湿らせながら撚った糸を枠に巻き返すことで、張力がかかった状態から糸を本来の状態に戻すことで強度・品質を整えます。温度・湿度の一定管理がこの作業の重要なポイントです。
・保管⇒出荷
揚げ返しが完了した後、生糸は一定量ごとに束にされて出荷まで保管されます。束は「1綛(かせ),2綛」と呼ばれます。
写真No.1 保管庫内部の様子
写真No.2 保管庫貯蔵の繭
写真No.3 煮繭に用いる装置
写真No.4 繰糸工程
写真No.5 揚げ返し後の生糸
繰糸作業の手順について理解を深めた後、実際に繰糸工として働かれている井関さんにお話を伺いました。
◆井関さんへのインタビュー
(活):活性化チーム、(井):井関さん
(活)現在のお仕事を始めたきっかけを教えてください。
(井)繰糸業に対して元々興味を抱いており、野村シルク博物館で開催されていた染織(せんしょく)講座を受講していたところ、製糸工場で働かれていた方が定年を迎えられて人員に空きができるのに伴い、工場で働いてみないかというお話をいただいたのがきっかけです。気がつけばここで働き始めてから10年ほど経ちます。
(活)働き始めて苦労した経験などはありますか。
(井)仕事は興味があってやりがいを感じていたのですが、頭で理解するのとは違い、作業が身体に馴染むのに時間がかかり苦労しました。最初の2、3年は、自分にこの仕事は向いていないのではないか、辞めた方がいいのではないかといった思いも持ちながら働いていました。
(活)野村シルク博物館の沿革をお聞かせください。
(井)現在の建物が建てられたのが平成6年で、それまで近くにあった繰糸工場で働いていた従業員の方3名が博物館の製糸工場に移ってきて働かれていました。なので、私は繰糸工2代目ということになりますね(笑)
(活)野村の製糸工場が他に誇る点・オンリーワンである点を教えてください。
(井)専用の保管庫が設置されているため、素材の持つ光沢を損なうことなく保管することが可能であり、多条繰糸機は低速回転で糸を巻き取り生糸を撚っているので、糸に余計なテンション(張力)がかかっておらず、うねりがある状態で繰糸ができるため、柔らかい質感を表現できます。こういった風合いを出すことは、大量生産・生産スピードが求められる現代の産業では難しいことで、同時に非常に贅沢な生産方法であると思います。
(活)現在どのようなところに生糸を出荷されているのでしょうか。
(井)京都府にある龍村美術織物さんから全量仕入れたいというありがたいお話をいただいていまして、そちらに出荷をしております。基本的に生糸は年に5回生産のシーズンがあり、作った生糸は保管しておいて発注を受けた際に適時出荷するという形をとっています。
(活)複数の作業工程があると思うのですが、その中で個人的に一番楽しい作業、そして一番大変な作業は何でしょうか。
(井)一番大変な作業でいうと、私自身は繰糸工なのですが繰糸工程が一番苦手であり、繰糸機の前に立っているときが一番気を張り詰めています(笑)反対に、一番好きな作業工程は揚げ返しです。毎日できた糸をおろす際に「きれいだな」と思います。それを踏まえた上で、全工程の中で最も重要なのが煮繭だと思っています。煮繭がうまく行われていないと、次工程の繰糸において節が繰糸機に引っ掛かり機械が止まってしまいます。煮繭がうまくできた日は、「いい仕事をしたな」という気持ちになります。
(活)先程の説明で野村の生糸は着物の帯に使われているという話がありましたが、身近なところでこんな有名な人に使用されたというエピソードをお聞きしたいです。
(井)有名な人物というと70年ほど前のエリザベス女王戴冠式の際、ドレスにここの生糸が使用されました。また伊勢神宮では式年遷宮という行事が二十年に一度実施されるのですが、その際ご神宝として奉納される刀の鞘などにもここの生糸が使用されました。
(活)シトラスリボンにも参加されているそうですが、参加にあたってどのような経緯があったのでしょうか。
(井)東京都にある龍工房(りゅうこうぼう)さんという組み紐などを製造されているお店から、シトラスリボンプロジェクトに参加するというお話を伺ったのがきっかけです。野村シルク博物館の生糸を使用したいとのお話があり生糸1kg余りを寄付したところ、GW連休の間に長さ100mにもなる織物を織ってくださり、それが非常に価値のあるものだということで開封式も行いました。
(活)昨今の新型コロナ感染症により消費の落ち込みといった産業に対する影響が懸念されていますが、織物業界でもそのような
影響というのはあったのでしょうか。
(井)織物業界で新型コロナ感染症の影響はあまり耳にしないですが、それよりも、時代の移り変わりに伴って和装する機会が減少していることで、一大産地である京都の機屋さんも苦労されているという話を聞きます。
◆織物館にて展示資料の鑑賞
野村シルク博物館内部の織物館では養蚕の基礎知識について、資料の展示解説がなされています。
写真No.6 かつて使用していた機械
写真No.7 製造工程
写真No.8 品種の解説
◆コースターの手織り体験
野村シルク博物館ではコースター手織り体験の他、数多くの講座が用意されています。ロビーに6台ほど置かれている手織り機にはそれぞれ違う色合いの経(たて)糸が取り付けられており、各自好きな経糸・緯糸を選択してコースターの手織りに臨みました。
写真No.9 ロビー風景
色の組み合わせによって自分だけのコースターが作れます
手足を使ってリズムよく、糸を織っていきます
誰でも簡単に自分だけのオリジナル作品を作ることができるので、ぜひ皆さんも体験されてみてはいかがでしょうか。
・料金
コースター(1枚)/(10cm四方)大人500円・小人300円
・所要時間
約30分
・備考
コースター織機が6台の為、予約等は行っておりません。
定員/1名~6名
・講座一覧
- 藍染め体験
- ろうけつ染め体験
- コースター手織り体験
- ストール織り体験
- 染織講座
◆感想
今回、野村シルク博物館に足を運んで繰糸から生糸の手織りまで、さまざまな角度からシルクの良さ・奥深さというものを知ることができ、大変有意義な時間を過ごすことができました。今回の体験は、作品一つ一つに素材の良さであったり、作り手の思いを感じることのできる手織りの魅力について多くのことを考えさせられる機会となり、織物をより身近に感じるようになり大変貴重な経験ができたと思っています。皆さんもぜひ織物の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
野村シルク博物館
住 所:愛媛県西予市野村町野村8号177番地1
電 話:0894-72-3710 (FAX:0894-72-3710)
開館時間:午前9時~午後5時
休 館 日 :毎週月曜日(祝日の場合はその翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
入 館 料 :一般350円、高校・大学生300円、小・中学生200円(団体割引15名以上)
交通案内:(車でお越しの場合)松山自動車道西予宇和ICから約15分 国道441号線右手(野村ダム手前)